
2025年7月12日、日本経済新聞の朝刊に掲載された「50歳からの積み立て投資」という記事を読んで、強く共感しました。
投資と聞くと「若いうちから始めるもの」「50代からでは遅い」と考える方も多いのではないでしょうか。ですが、人生100年時代、60歳や65歳でリタイヤしてもその後20年以上の生活が続きます。
つまり、50代は老後資金を備える“最後のタイミング”。日経の記事ではその重要性と、実際にとるべき資産運用の手法が、具体的なデータとともに提案されていました。
日経記事をベースに、前提となる事項や具体的な商品内容について紹介します。
現金だけでは資産が目減りしてしまう「インフレ時代」の落とし穴
現在のような持続的なインフレ環境では、手元に現金を置いておくだけで、資産価値が年々目減りしていくという現実があります。
たとえば、年間2%のインフレが10年間続いた場合、1,000万円の現金の実質的価値は約820万円まで減少してしまいます。
これは「何もしないこと」による見えない損失です。
▼インフレ率2%が10年続いた場合の現金価値の推移
(※1,000万円を保持した場合)
経過年数 | 価値(円) |
---|---|
1年 | 9,803,922 (1000万円÷1.02) |
2年 | 9,611,688 (1000万円÷1.02÷1.02) |
3年 | 9,423,223 |
4年 | 9,238,454 |
5年 | 9,057,308 |
6年 | 8,879,714 |
7年 | 8,705,602 |
8年 | 8,534,904 |
9年 | 8,367,553 |
10年 | 8,203,483 |
つまり、10年でおよそ180万円分の価値が目減りする計算です。
このように、「預金=安全」と考えて現金を長く眠らせておくことは、実はリスクの高い選択肢であるといえます。
50代からの投資で注意すべき「リスク」とは?
一方で、投資には当然リスクが伴います。特に50代は投資期間が短くなるため、次のような注意点があります。
◆ 株式100%は要注意──暴落時に“回復の時間”がない
若い世代と違って、50代・60代は暴落後のリカバリーに必要な「時間的余裕」がありません。
たとえば、リーマンショック時には世界的な株価が約50%下落し、元に戻るまでに5年以上かかりました。
私が以前書いたこちらの記事では、ジェレミー・シーゲル著『株式投資』を引用し、保有年数ごとのリターン幅について紹介しています。
ポイントは、保有期間が長ければ長いほどリスクは下がるということ。
逆に言えば、50代からの投資では、値動きの激しい資産に偏ると危険であるということでもあります。
日経新聞が提案するポートフォリオとは?
では、どんな資産配分が望ましいのか?
日経記事では、50歳からリタイヤまでの平均的な投資配分として、以下のようなポートフォリオが紹介されていました。
- 世界株式:70%
- 日本を除く先進国債券:30%
この組み合わせなら、年平均5%程度の長期リターンが期待できるとされています。
また、リタイヤ後の資産寿命を延ばすには、リタイヤ後は「債券6割・個人向け国債1割・株式3割」という構成も一案として提示されていました(想定リターンは年3%程度)。
これは、リスクとリターンのバランスを考えた非常に現実的な設計です。
ただし、初心者の方で株式の割合が多く精神的に不安になるようであれば、株式の割合を下げて始めるのもよいかも知れません。
積み立て投資における最大の味方──NISA制度の活用
NISA(少額投資非課税制度)は、投資の利益が非課税になる制度。2024年から制度が刷新され、年間360万円まで(成長投資枠+つみたて投資枠)運用が可能となっています。
積立投資は、「ドルコスト平均法」という時間分散の力を活かす方法でもあります。
詳しくは、以下の記事でも具体例をもとにわかりやすく解説しています。
具体的な投資商品(2025年7月時点)
日本経済新聞の記事では、具体的な商品名までは記載がありませんでした。
記事の趣旨を踏まえた具体的な商品は、次のものが該当します。
◎ 世界株式(eMAXIS Slim 全世界株式 オール・カントリー)
- 対象:先進国(含む日本)+新興国
- 信託報酬:0.05775%
- NISA:成長・つみたて投資枠両方に対応
- 分配金なし(再投資型)
世界全体に分散できる、最も基本的かつ王道のインデックス投信です。
◎ 先進国債券(eMAXIS Slim 先進国債券インデックス)
- 対象:日本を除く高格付け先進国の公社債に幅広く投資
- 信託報酬:0.154%
- NISA:成長投資枠対応
- 分配金なし(再投資型)
債券はリターンが安定しており、株式の値動きのクッションとして機能します。
◎ 個人向け国債(変動10年)
- 利率(2025年7月時点):0.96%(税引前)
- 元本保証あり
- NISA対象外
安全資産として資産の一部に組み入れると、暴落時でも精神的に安心できます。
老後資金の「使い方」こそ、資産寿命を左右するカギ
せっかく積み立てた資産も、使い方(取り崩し方)を誤るとあっという間に減ってしまう可能性があります。
記事では、以下の2つの取り崩し方が紹介されていました。
① 定額法:毎年同じ金額を引き出す
同じ金額を受け取るため生活設計しやすいが、インフレや相場変動の影響を受けやすい。
② 定率法:毎年残高の一定割合を引き出す
資産の寿命を延ばしやすいが、受取金額が年によって変動する。
私は「定率売却」に注目し、その考え方をまとめた記事も書いています。
また、定率法・定額法の考え方に基づいた「4%ルール」について、メリット・デメリットを以下で詳しく解説しています。
まとめ:50代は“再スタート”にふさわしい年代──投資で広がる選択肢
- インフレ時代に、現金だけでは老後に不安
- 50代からの積み立て投資は「遅くない」、むしろ「今こそ始めるべき」
- 世界株式と先進国債券のバランスが鍵
- NISAを活用し、リスクを抑えた運用を
- 取り崩し戦略まで含めて、持続可能なマネープランを考える
50代からでも、投資という選択肢で“未来の安心”は作れます。
一歩踏み出すその先に、自分らしいセカンドライフが待っています。
