学生時代の先輩から、ふと一冊の本を紹介されました。
武田双雲さんの『「ありがとう」の教科書』。
副題には「良いことばかりが降りそそぐ感謝の技術30」とあります。
読み進めると、どこか懐かしいあたたかさを感じました。
「感謝を技術として身につける」という考え方。
気持ちを整えるための“心構え”ではなく、日々の生活にそっと組み込んでいく“習慣”としての感謝。
武田双雲さんらしい、やわらかい言葉で綴られた一冊でした。
「ありがとう」の反対語は「当たり前」
とても印象に残ったのは、「ありがとう」の反対語は「当たり前」という一文です。
たしかに、意識しなければ、
水が出て、洗濯機が回って、電気がつくことさえ“当たり前”のように扱ってしまう。
便利さの裏側にはたくさんの人の仕事があるのに、気がつかないまま一日が過ぎていく。
「ありがとう」を口にするためには、まず“当たり前”という無意識の層に気づく必要がある。
そのフィルターが外れたとき、
同じ景色のはずなのに、どこか柔らかく見える――そんな感覚がありました。
「和顔(笑顔)」は先に作るもの
本書には「和顔」、つまり“笑顔”についての章もあります。
“楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる”という逆転の発想。
脳の仕組みとして、表情が感情の方向を決めていくそうです。
このくだりを読んだとき、ある体験がよみがえりました。
先日、ハーフマラソンに出場したときのことです。
1周3キロの周回コースで、折り返しも多く、
他のランナーと何度もすれ違う構成になっています。
懸命に走るランナーの表情は、やはり苦しさがにじみます。
そんな中、一人だけ、何周走ってもずっと笑顔のランナーがいました。
その笑顔は、こちらまでじんわり元気を届けてくれました。
「試しに、少し真似してみようか。」
そう思って、自分も笑顔を作りながら走ってみました。
すると不思議なもので、呼吸は同じように乱れているのに、
心の中にほんのわずかな“軽さ”が生まれるのです。
足取りが変わるわけではありません。
でも、気持ちが少し前を向く。
あの時の体感が、本書の「和顔」の章の説明とぴたりと重なりました。
生産性優先の世界では、気づけなかった感覚
正直に言うと、会社員として慌ただしく働いていた頃の私は、
この手の本に深く共感するタイプではありませんでした。
生産性、効率、最適化。
その軸で毎日を回していた時期は、
“感謝の習慣”というものに心を割く余裕がなかったのです。
しかし今、生活のリズムがゆるやかになったことで、
気持ちの深いところにスッと届くようになりました。
「ありがとう」と口にする習慣。
当たり前に目を向けて、ひとつひとつに感謝する姿勢。
そして、笑顔を“後から”のものではなく“先につくる”という考え方。
どれも、昔の自分には持てなかった余白で、
今の自分だからこそ受け取れるメッセージでした。
学生時代の先輩がふと紹介してくれたこの一冊は、
今の私にとって、とても良いタイミングで届いた贈り物でした。





