投資において大切なことは何か。バートン・マルキール著『ウォール街のランダム・ウォーカー』には、投資家として心に留めておくべき「基本原則」が記されています。読みながら、「まさにそのとおり」と共感できる内容でした。
3つの基本原則について、著書内で紹介されている具体例も交えながらご紹介します。
1. 時期固定の支出には、低リスクの資金が必要
この原則の本質は、「お金には目的ごとに分けて運用を行う」ということです。将来の様々なニーズに応じて、資金も分けて管理すべきだという考え方です。
本書では、若い夫婦の例が挙げられています。
ある若い夫婦が、老後資金と、1年後に必要な住宅の頭金を計画していたとします。老後資金は、長期目標の投資(株式等)に適しているが、住宅頭金は1年物の譲渡性預金証書のようなもので運用するのが賢明である。
また、子どもの大学進学費用についても次のように言及されています。
「3年後から6年後にかけて大学の学費が必要になる」とわかっている場合、その期間の長さに対応したゼロ・クーポン債等で運用するのがよい。
株式は「いつでも売れる」資産ではあるものの、「想定どおりの金額で売れる」とは限りません。そのため、「時期が決まっている支出」には価格変動リスクの少ない手段で準備することが重要です。
2. 自分のリスク選好をわきまえること
自分にとって最適な資産構成とは何かについて語られています。
マルキールはこう述べています。
あなたにとって理想的な資産配分とは、それを保有していても夜ぐっすり眠れるような構成である。
リスク許容度は、年齢や収入、資産規模などによって異なりますが、それに加えて「暴落時に自分がどう感じ、どう行動できるか」という視点です。
実際に、2008年のリーマン・ショックでは市場が約50%も下落しました。あのような局面で、「胃が痛くなる」「眠れなくなる」「慌てて売却してしまう」といった反応が出るようであれば、明らかに自分のリスク許容度を超えた投資をしていたということになります。
そして重要なのは、「そんなことが起こるなんて予想していなかった」「運が悪かった」で済まされる話ではない、という点です。
だからこそ、資産配分を考えるときは、「最悪のケースを想定したうえで、それでも耐え、冷静に行動できる構成かどうか」を検討する必要があります。長期で見れば株式のリスクは相対的に小さくなる傾向がありますが、短期的な値動きは避けられません。
3. 規則的に長期に積み立てる
「投資に使えるまとまった資金がない」という人にも、しっかりとした解決策が紹介されています。それが、「規則的に、長期にわたって積み立てる」という方法です。
著者はこうアドバイスしています。
少額でもよいので、給与などから自動的に天引きされる形等で積み立てを継続すれば、それが大きな資産へと育っていく。
これはいわゆるドルコスト平均法の考え方であり、相場が高いときには少なく、低いときには多く買えるため、長期的には平均購入価格を抑える効果があります。
おわりに:投資とは「人生設計そのもの」
マルキールのこれらの原則は、全てのベースとなる考え方でした。
特に共感したのは、「特定の時期に、想定どおりの金額で現金化できるように資金を準備する」という考え方。株式は時期を選んで売ることはできても、価格をコントロールすることはできません。ですから、住宅購入資金や教育資金など、大きくて大切な目的のための資金は、暴落のタイミングに左右されないような安全な手段で管理すべきです。
また、リスクに対する感情面の認識も重要だと思います。自分にとって「ちょうどよい」リスクの取り方を見つけること。それは、一般的なポートフォリオモデルだけではなく、自分自身の性格も考慮すべきです。
投資とは、「いかにお金を増やすか」だけでなく、「いかに安心して人生を歩むか」にもつながるもの。だからこそ、この本の教えは、これから投資を始める方にも、すでに実践している方にも、大切な示唆を与えてくれます。