2025年5月に訪れた高知県須崎市。
のどかな港町という第一印象の奥に、じわりと伝わってきたのは、「地域全体で食文化を守り、伝えようとする意志」でした。
町を歩けば目に入ってくるのは、須崎ならではの特産品たち――鍋焼きラーメン、メジカの新子、うつぼ。
それぞれの味に出会うことは、まるで土地の記憶に触れるような旅でもあるのです。
鍋焼きラーメン――土鍋にぐつぐつ、須崎のソウルフード
須崎の特産品として、まず名前が挙がるのが「鍋焼きラーメン」。
土鍋でぐつぐつと煮えた状態で提供されるラーメンは、見た目のインパクトもさることながら、食べるほどにじんわりと温かみが広がります。
須崎では、2002年に市民グループ「鍋焼きラーメンプロジェクトX」が立ち上がり、地域の味としてブランディングが始まりました。
その成果もあって、新横浜ラーメン博物館に期間限定で出店されたこともあるほどです。
私が立ち寄った「橋本食堂」では、コクのあるスープに硬めの細麺、生卵の絶妙なバランスが楽しめました。

鍋焼きラーメンの記事はこちらです
👉【高知・須崎市】そうだ山温泉と鍋焼きラーメン「橋本食堂」へ。自転車でめぐる日帰り旅
メジカの新子――幻の魚、出会えなかったけれど
「メジカの新子」という名前も、須崎ではよく耳にします。
これはソウダガツオの若魚のことで、目と口が近いことから「目近(めぢか)」と呼ばれています。
特に「新子」と呼ばれるサイズのメジカは、8~9月のごく短い期間だけ味わえる季節限定の逸品。
非常に痛みやすく、獲ったその日でなければ刺身で食べることができないため、須崎市以外ではほとんど流通しないそうです。
今回の私の訪問は春。残念ながら旬の時期から外れており、幻の味には出会えませんでした。だからこそ、「旬の時期に、その土地でしか味わえない」――そんな特別感のある魚なのです。
うつぼ――“須崎のごちそう”は、またの楽しみに
須崎の特産品として、よく目にしたもうひとつが「うつぼ」。
あの鋭い顔立ちからは想像しにくいかもしれませんが、須崎では昔から親しまれてきた食材です。刺身やたたき、唐揚げなど調理法も多彩で、コラーゲンたっぷりの皮目が美味しいと評判です。
本当は私も今回の旅で味わいたかったのですが、残念ながら鍋焼きラーメンでお腹がいっぱいになり、うつぼ料理にありつけませんでした…。
ですが、町中ののぼりや飲食店のメニューにうつぼが登場する様子から、その存在感と地元の愛着がひしひしと伝わってきました。
「次こそは必ず」と、心に誓って須崎をあとにした食材のひとつです。

まちぐるみのブランディングが、旅人に届く
須崎市では、観光協会や地元の方々が連携して、それぞれの食材に物語と魅力を持たせ、丁寧に伝えているように感じました。
町のあちこちに掲げられたポスターやのぼり旗、お店の工夫されたメニュー表…。そこから伝わってくるのは、「誇りを持って地元の味を紹介したい」という真摯な姿勢です。

「地域の味が、地域の記憶を育てる」
そんな思いを静かに感じた、須崎の旅でした。
もし、坂本龍馬ゆかりの地・高知市や、NHK連続テレビ小説「あんぱん」の舞台地で知られる香美市を訪れる機会があれば、須崎市にもぜひ足を伸ばしてみてください。
まちぐるみで育ててきた食の魅力と、どこか懐かしく温かな町の空気が、旅の記憶に優しく寄り添ってくれると思います。
鍋焼きラーメンの記事はこちらです
👉【高知・須崎市】そうだ山温泉と鍋焼きラーメン「橋本食堂」へ。自転車でめぐる日帰り旅